メディカルトピックス
MEDICAL TOPICS
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No.12 CRISPRによりがんと闘う免疫細胞を作り出すことに成功
(BEYOND Health 海外トピックス Science誌から 2020.2.20より抜粋)
https://project.nikkeibp.co.jp/behealth/atcl/news/19/00130/?P=2
「CRISPR/Cas9と呼ばれる遺伝子編集技術によって、腫瘍を攻撃する“デザイナー”免疫細胞を作り出すことに成功したとする研究結果を、米ペンシルベニア大学のCarl June氏らが「Science」2月6日オンライン版で報告した。CRISPR/Cas9は細胞内のDNAの一部を切り取ること、損傷遺伝子の修復、置換などを可能にする技術である。(中略)ゴールは、ある特定の遺伝子変異に起因する疾患を治療すること、また、がんに対してなら、遺伝子操作により免疫システムを武装させてがん細胞を攻撃させることである。」
「米国では既に、一部の血液がんに対し、CAR-T細胞療法と呼ばれるT細胞を利用した治療が承認されている。この治療では、患者から取り出したT細胞に遺伝子操作を加え、細胞表面に特定の受容体を発現させて体内に戻す。これらの受容体の働きにより、T細胞は腫瘍を発見・破壊する。ただ、現状では、CAR-T細胞が効果を示すのは血液がんに対してのみであり、固形がんではがん細胞に対する免疫反応が働かない。
今回、June氏らはCRISPR/Cas9によってT細胞が本来持っている2つの受容体と、免疫チェックポイントとしてT細胞の働きを阻害するPD-1と呼ばれるタンパク質の除去という、3つの遺伝子編集を実施した。米モフィットがんセンターのJose Conejo-Garcia氏は、PD-1の除去を可能とする技術によって、これまでにない「スーパーT細胞」を作り出し、固形がんが免疫による攻撃をかわしてしまう問題を克服できる可能性があるとの見方を示している。どの専門家も今回の研究では複数の遺伝子編集が可能であること、改変したT細胞が患者の体内で生き続けること、実験室でこれらのT細胞ががん細胞を死滅させたことが示されたに過ぎないと指摘。(中略)この治療が承認を得られるような段階になるまであと10年はかかるとの予測を示している。」
私どもは1999年より活性化自己リンパ球(αβT)細胞療法をがん患者さんに提供し安全性と有効性を示してきました。がんの目印を認識したキラーT(リンパ球)細胞はがん患者さんの体の中に存在しています。がんとの戦いによる疲弊、殺細胞性抗がん剤による治療などで減少し機能しにくくなっていると考えます。これを増加・活性化させることががん治療につながっていくと考えます。免疫細胞治療は自身の体にあるこの細胞を体外で増加させて、身体に戻すという安全な治療と考えます。
人工的なTリンパ球細胞を作る際に最も重要で困難なのはその個人のがんの目印を調べ、それをT細胞に情報提供することです。人間の体の中ではこの機能も樹状細胞が当たり前に行っています。このシステムを人工的に作成する新方法として、がんを遺伝子検査し目印を探索する『ネオアンチゲン樹状細胞ワクチン』の臨床研究がこの度許可されました。期待したいと考えます。
2020年2月23日 福岡メディカルクリニック 内藤恵子