メディカルトピックス
MEDICAL TOPICS
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No.34 コロナだけでないmRNAワクチン 進行がんも止めた(1)
NATIONAL GEOGRAPHIC 日本版 2021/8/6
https://style.nikkei.com/article/DGXMZO74172280W1A720C2000000?channel=DF130120166020&k=2999123123590
2019年2月、司法試験の勉強をしていたモリー・キャシディーさんは、耳に激しい痛みを感じた。(中略)のどやあご、鼻、口、耳などにできる「頭頸(けい)部がん」だと判明した。キャシディーさんは舌の一部と35個のリンパ節を切除する手術を受け、35回の放射線照射と3サイクルの化学療法も受けた。だが一連の治療を終えてわずか10日後、鎖骨に大理石のようなしこりがあることに気づいた。がんは猛烈な勢いで再発していた。「その時点で首と肺に転移していて、治療の選択肢はなくなっていました」とキャシディーさんは語る。米ファイザー・独ビオンテック製や米モデルナ製の新型コロナワクチンについて初めて耳にしたとき、背景にあるmRNA技術はSF世界の話のように聞こえた(中略)。
「mRNAワクチンの概念は新しいものではありません。今回のコロナ禍で、多くの人々に有効かつ安全に使える技術になりうることが示されたというだけのことです」(米マサチューセッツ工科大学(MIT)のナノ治療と生体材料研究分野のリーダー ダニエル・アンダーソン氏)(中略)
「この技術の優れた点の一つは、がんの種類を問わないことです。変異さえ特定できれば、乳がんであろうと肺がんであろうとかまいません」「この技術のすばらしい点は、患者のがんと、その根底にある生物学的なしくみにもとづいて融通がきくところです」(米テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの消化器腫瘍学助教で医師のバン・モリス氏)
キャシディーさんは、自分用の個別化mRNAワクチンの注射とペムブロリズマブという免疫療法薬の点滴投与を27週間で9回受けた。(中略)治療が20年10月に終了した頃には、キャシディーさんのCT画像に異常は見られず、体内にがんは見つからなくなっていた。
オーダーメードで免疫系を訓練
「私たちがmRNAがんワクチンでやろうとしているのは、免疫系に腫瘍の存在を知らせ、攻撃させることです。mRNAがんワクチンは、生物学的なソフトウエアのようなものなのです」「現時点であまり良い治療法がないがんや、転移する可能性が高いがんに対してワクチンが開発されています」(米ヒュースン・メソジスト病院RNA治療センターの医療ディレクター ジョン・クック氏)
「がんは免疫系に見つからないように、免疫系を抑制する信号を出しています」とアンダーソン氏は言う。「mRNAワクチンの目的は、免疫系に警戒態勢をとらせ、腫瘍細胞の特徴的な部分を狙って攻撃するように仕向けることにあります」
(文 STACEY COLINO、訳 三枝小夜子、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年7月12日付]
(No.35に続く)