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No.51(-52) NKT細胞標的がん治療とは―新しい免疫療法の臨床試験と期待(1)

No.51(-52)  NKT細胞標的がん治療とは―新しい免疫療法の臨床試験と期待(1)

監修:理化学研究所科技ハブ産連本部創薬・医療技術プログラム臨床開発支援室客員主管研究員

谷口克先生   (がんプラス2019.3月 取材・文:柄川昭彦)

https://cancer.qlife.jp/series/as005/article8794.htmlを要約

新しい免疫治療の開発が進んでいます。この治療は、1986年に発見され「第4のリンパ球」と呼ばれるNKT細胞(ナチュラルキラーT細胞)を活用するところがポイントです。がん組織では免疫抑制細胞などの働きにより、免疫が機能しない状態になっています。この治療は、体内のNKT細胞を活性化することにより、がん組織における免疫環境を一変させ、免疫細胞ががんを攻撃できるようにする治療法です。すでに臨床試験で有効性を示す結果が出ており、先進医療Bとして治療が行われてきた実績もあります。現在、NKT細胞を活性化させる新規リガンド(受容体に特異的に結合する物質)を用いた治療の第I相試験が進行しており、結果が注目されています。

がんと免疫-免疫が機能しない理由

人間の体には、体にとっての異物を攻撃する免疫というシステムが備わっています。侵入してきた細菌などは免疫の働きによって排除され、1週間もすれば治ります。がんに対しては免疫が同じようには働きませんなぜなら、がん細胞の集団であるがん組織の中は、免疫が機能しない免疫不全状態になっているからです。がんはいくつもの方法を駆使して、免疫が機能しないようにしています。

その1つに、分子レベルの免疫チェックポイントがあります。自己防御の仕組みを、がん細胞が利用して免疫細胞の攻撃にブレーキをかけるものです。

最も致命的なことは、病原体に対して必ずできる長期免疫記憶が、がん細胞に対してはできないことです。試験管内にがん細胞を入れ、そこに攻撃部隊となるリンパ球を加えると、時間はかかりますが、がん細胞は徐々に死んでいきます。しかし、がん組織には1種類のがん細胞が集まっているわけではなく、複数の異なる種類のがん細胞で構成されることになります。

こういった問題を解決してくれる新しい免疫治療が、現在私たちが研究開発を行っている「NKT細胞標的がん治療」です。

NKT細胞が免疫に果たす役割

NKT細胞について、簡単に説明しておきましょう。この細胞は、T細胞、B細胞、NK細胞に続く「第4のリンパ球」と呼ばれている免疫細胞です。私が千葉大学に在籍していた1986年に発見しました。

末梢血中にNKT細胞は非常に少なく、末梢血の白血球の中の0.1~0.01%を占めるにすぎません。そして、病変が生じるとすぐに現場にやってきます。体に異物が侵入したとき、その異物の抗原に対応する受容体をもつ免疫細胞が反応します。するとNKT細胞は、その免疫細胞を活性化し、1つの細胞を数十億個にまで一気に増殖させ、免疫細胞の軍団を作り上げます。そして、一度活性化して軍団を作った免疫細胞は、その病原体に対する長期免疫記憶を保持するため、再びその異物が体内に侵入してきたときは、すぐに撃退することができます。

こんなに重要な働きをするNKT細胞ですが、そのままでは、がんに対しては十分な働きをすることができません。がん細胞は自己の正常細胞からできたものなので、NKT細胞を活性化する分子がないからです。そのため、NKT細胞は優れた潜在能力をもちながら、そのままではがんに対しては役に立ちません。がんの治療にNKT細胞を利用するためには、人工的にNKT細胞を活性化する必要があるのです。

NKT細胞のがんに対する働き

人工的に活性化したNKT細胞はがんに対してどのように働くのでしょうか。次のような6つの働きがあります

(1)樹状細胞を成熟させる働き樹状細胞は、攻撃部隊を構成する免疫細胞に、がんの目印であるがん抗原を提示する役割を担っています。それにより、提示したがん抗原に合う受容体をもった働き蜂とも言えるキラーT細胞を増やし、がんを攻撃させるのです。こうした働きは、成熟した樹状細胞でなければできません。がん組織では、がんが作る免疫抑制細胞や免疫抑制物質の働きで樹状細胞は成熟できなくなっていますが、人工活性化NKT細胞は樹状細胞を成熟させることができます。

(2)アジュバント作用活性化NKT細胞は、IFN-ɤ(インターフェロン・ガンマ)という物質を出し、さまざまな免疫細胞を次々に増殖させる働きをします。

(3)アポトーシスによるがん細胞に対する直接殺作用:活性化NKT細胞は、がん細胞を直接殺す働きももっています

(4)チェックポイント阻害作用:活性化NKT細胞は、がん細胞が生体の免疫細胞の攻撃から自身を守るために用意した免疫抑制細胞を殺す働きをします。

(5)血管造成阻害作用:がんは増殖に必要な栄養と酸素を得るため、がん組織に向けて新たな血管を造成しますが、活性化NKT細胞の働きで、がん組織内の免疫環境が改善され、免疫細胞の攻撃が活性化される結果、この血管造成も抑えられます。

(6)長期の免疫記憶作用:がん細胞にはNKT細胞を活性化する物質がないため、病原体感染のときのように免疫記憶を作ることができません。人工的に活性化されたNKT細胞は、がんに対する免疫記憶幹細胞を作り、長期間がんを攻撃できる免疫記憶誘導することができます。

NKT細胞を標的にしたがん治療

こうした人工活性化NKT細胞だけがもつ6つの作用をがんの治療に利用するのが、「NKT細胞標的がん治療」です。NKT細胞標的がん治療では、標的となるのは、がんでは活性化が期待されないNKT細胞です。それを人工的に活性化し、活性化NKT細胞とすることで、前述した1~6のような作用が発揮されます。すると、がん組織内の免疫状態ががらりと変わり、免疫細胞ががんを攻撃するようになるのです。

⇒N0.52に続く

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