メディカルトピックス
MEDICAL TOPICS
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No.(51-)52 NKT細胞標的がん治療とは―新しい免疫療法の臨床試験と期待(2)
監修:理化学研究所科技ハブ産連本部創薬・医療技術プログラム臨床開発支援室 客員主管研究員
谷口克先生 (がんプラス 2019.3月 取材・文:柄川昭彦)
https://cancer.qlife.jp/series/as005/article8794.htmlを要約
(No.51より続く)
NKT細胞を活性化する物質を発見
前述したように、NKT細胞を発見したのは1986年のことです。NKT細胞は感染防御に欠かせない免疫細胞で、長期免疫記憶にかかわっていることも明らかにできました。米国免疫学会は、NKT細胞の発見を「免疫の金字塔(Pillars of Immunology)」として認定しています。
そして1997年には、NKT細胞を人工的に活性化するリガンド(NKT細胞受容体に特異的に結合し活性化する物質)が、糖脂質の「αGalCer」(アルファ・ガラクトシルセラミド)であることを突き止めました。これを使うことで、NKT細胞を人工的に活性化することができるようになりました。がん抗原ワクチン投与と同時にNKT細胞を人工的に活性化させると、キラーT細胞が30倍にも増えることがわかったのです。
NKT細胞標的がん治療の臨床試験
最初の臨床試験は千葉大学で行われました。対象となったのは、進行・再発非小細胞肺がん(ステージIIIB、ステージIV、再発)の患者さん17人です。平均的な生存期間は4.6か月とされていました。こうした患者さんたちにNKT細胞標的がん治療を行ったところ、その生存期間中央値は18.6か月でしたそれだけで生存期間が4.3倍に延長したことになります。
千葉大学において2011年から先進医療Bで行った進行・再発非小細胞肺がん35例の治療成績をまとめると、生存期間中央値は22.2か月でした。最初の臨床試験と併せて考えても、1クールの治療で20か月前後の生存期間長期延長が期待できるといえそうです。
免疫治療の効果判定の考え方
NKT細胞標的がん治療は、このように臨床試験、および先進医療Bも行われ、治療効果を確認することができましたが、その評価判定において従来の効果判定基準を用いることは必ずしも正しくないことがわかりました。 千葉大学で行った臨床試験において、31.9か月という長期生存が得られた10例(生存期間中央値が31.9か月)についてRECIST判定を行ってみると、10例中の6例がPDで、4例がSDでした。つまり、がんが小さくならなくても、治療がよく効いて長期生存が得られた症例の割合が高いのです。免疫治療ではこうしたことがよく起こり、従来のRECIST判定では免疫治療の効果が過小評価される可能性があることに注意が必要です。
転移や再発を抑える長期の免疫記憶
もう1つ重要なのは、NKT細胞標的がん治療が長期の免疫記憶を作り出している点です。長期免疫記憶ができると転移が抑制され、それによって生存率が高まることが証明されたのです。がん患者さんにとって、がんの再発・転移がないことが極めて重要で、NKT細胞標的がん治療は、長期免疫記憶を作るために重要です。
新規リガンドでの臨床試験
新たに見つかった糖脂質専門の抗原提示細胞と新規リガンドを使用することで、培養期間が2日間に短縮されています。治験の対象となるのは、標準治療が無効となった進行・再発固形がんの患者さん(20歳以上75歳未満)で、がん種は特に決められていません。がん種を特定しないのは、患者さんの免疫系を標的とするNKT細胞標的がん治療は、すべてのがん種に効果が期待できると考えられるためです。
再生医療等製品として条件および期限付き承認の取得も目指しています。
(以上)
今回はとても学術的でしたので、要約はかなり省いた文章になりました。3月、NKT細胞療法を瀬田クリニックグループにおいて安全性試験終了し、皆さんに提供できるようになりました。今まで、免疫というのは複数の細胞が相互、相補的に関係して効果を出していると説明をしてきました。総合的な反応のコントローラーとなるのがNKT細胞です。本文図表を見ていただけると分かりやすくなると思います。気になる方はお問合せ下さい。
2023年3月20日 福岡メディカルクリニック 内藤恵子