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No.53 JCOG2007中止「同じ肺癌治療を受けている人に正確な情報伝えたい」国がん、JCOG会見詳細
m3.com編集部 2023年5月2日 (火)配信 臨床ニュース
未治療進行・再発の非小細胞肺癌(NSCLC)に対する免疫チェックポイント阻害薬(ICI)併用療法(ニボルマブ+イピリムマブ、以下 Niv+Ipi)に関する多施設共同臨床試験(JCOG2007、NIPPON試験)が、試験治療群で予期した範囲を超える死亡が確認され、早期中止された(「肺癌ICI併用療法で予期せぬ死亡増加、臨床試験を中止」参照)。これを受け、4月28日夜、国立がん研究センターと日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)が緊急会見を開いた。
研究代表医師の岡本勇氏(九州大学病院呼吸器科)、JCOG代表者の大江裕一郎氏(国立がん研究センター呼吸器内科長)、JCOGデータセンター長の福田治彦氏(国立がん研究センター中央病院臨床研究支援部門データ管理部長)が対応に当たった。岡本氏は「同試験以外にもNiv+Ipiを行っている施設は多いと思う。同じ治療を受けている患者さんや主治医の先生に正確な情報をお伝えしたい」と話した。 (m3.com編集部・坂口恵)
再発・進行NSCLCの予後と現状
免疫チェックポイント阻害薬登場で生存率が20%台に向上
岡本氏は冒頭、JCOG2007早期中止を理解する上で重要な患者背景を説明した。同試験の対象である進行・再発NSCLCは「肺癌の約85%を占める最も多いタイプで、手術不能の遠隔転移を伴った状況で診断される(進行型)ことも多い。手術ができる状態で見つかっても、手術後数年で遠隔転移を伴って再発する(再発型)ケースも少なくない。最近では免疫チェックポイント阻害薬の登場により5年生存割合が20%まで向上するなど、治療成績の改善が得られている領域’(編集部注:日本のがん統計による遠隔転移を有する肺癌の5年相対生存率は6.4%)」(岡本氏)だという。
7%の治療関連死亡率、どのくらい高い?
JCOG2007では、2023年4月までに試験治療群(化学療法+Niv+Ipi)で148人中11人(7.4%)という、研究グループが当初予期していた範囲を超える死亡率が確認されたため、2023年3月30日に早期中止された。「抗がん剤治療には、一定頻度でどうしても避けられない治療関連死亡が生じる」と岡本氏。臨床試験ベースでの治療関連死亡の割合は日本では1-2%に抑えられていることも多く、海外では5%程度という研究もあると話す。
JCOG2007は、既に治験で有効性と安全性が確認されている2つのレジメンの日本人における優位性を検証する「特定臨床研究」の枠組みで実施されており、承認後の臨床試験で予期しないレベルの治療関連死亡が認められるのは異例。「JCOG全体でも、毒性のために試験が早期中止になるのは10年に1回、100試験に1回あるかないかという非常にまれな頻度」(福田氏)だという.
肺癌領域ではあまりなかったサイトカイン放出症候群
発症当日~3日で死亡、急激な転帰が特徴
同試験でみられた治療関連死亡で特筆すべき点として岡本氏が挙げたのは「サイトカイン放出症候群」。「3例とも発症当日から3日と、いずれも極めて早い経過でなくなっているのが特徴」と指摘する。「初期症状として発熱で受診してきた患者さんが多い。一般的に、今発熱があれば、新型コロナウイルス、インフルエンザウイルスの検査をして陰性であれば、何らかの感染症を疑い、抗菌薬などを投与するという治療が行われる。そういう治療をしている時に急激に血圧が下がって、院内で蘇生を始めるが救命できないという経過をたどったケースが多い」と岡本氏。「同試験以外にもNiv+Ipiを行っている施設は多いと思う。同じ治療を受けている患者さんや主治医の先生に正確な情報をお伝えしたい」と話した。
「風邪様症状、見過ごさないで担当医にすぐ連絡を」
また、前出の表の通り、サイトカイン放出症候群と確定診断される前に敗血症が疑われ、治療が開始されていたケースもあった。「肺臓炎も風邪と似た咳や息切れ、発熱が見られることがある。同試験に限らず、(抗がん薬などによる)肺臓炎で亡くなるがん患者さんの多くが発熱しても解熱剤を飲んだり、受診を我慢したりして、担当医にすぐ連絡していなかったケースが目立つ。発熱や咳などいつもと違う症状があれば、すぐにがんの治療を受けている担当医に連絡してほしい」(福田氏)
治験では分からなかった毒性?
Ipi追加の影響大きいとみる理由
次に大きな関心が寄せられたのは、臨床第III相試験や治験では報告されなかったレベルの治療関連死亡がJCOG2007でなぜ明らかになったのかという点だ。現時点で、研究グループとしては「治療関連死亡の蓄積にはIpiの影響が強いのではないか」との見解を示している。岡本氏はその理由として「Niv(抗PD-1抗体)は既治療(化学療法)例への単剤治療が初期に承認されており、治療経験も多い。また、プラチナ併用療法+(抗PD-1抗体の)ペムブロリズマブやプラチナ併用療法+アテゾリズマブなど、抗CTLA-4抗体が入っていないレジメンの治療経験も多くなっている。その範囲ではサイトカイン放出症候群の経験はほとんどなかった」と指摘。また、「NSCLCに対する抗PD-1抗体と抗CTLA-4抗体の併用療法で免疫関連有害事象が増えることは既知の事実(J Clin Oncol. 2021; 39:2327-2338)。今のところ、Ipiを長く続けることが良くないのではないかと考えている」との見解を示した。
Niv+Ipi、他のがん種との違い?化学療法の影響は
なお、メラノーマや腎細胞癌などでも、両者の併用療法が保険承認され、実臨床で行われているが、「いずれのがん種でもIpiを4週置きに投与して4回の投与で治療が終了する。NSCLCでは6週間隔で効果が見られる限りは投与を続けているので、今のところ、Ipiの影響が大きいと考えて、JCOG2007の参加患者さんに対してはNiv単剤に移行することを検討していただきたいと呼びかけている」(岡本氏)そうだ。一方、再発進行NSCLCの一次治療に行われるプラチナ療法の影響を指摘する意見もあるようだ。福田氏は「食道癌に関してはNSCLCと同様、NivとIpiを効果の続く限り投与する方法がとられている。ただ、食道癌では化学療法は併用されない中で今回のJCOG2007のような治療関連死亡は報告されていない。現段階ではっきりしたことは言えないが、その可能性も否定できないと考えている」との見解を示した。
日本人サブ解析で3年生存割合41%の有効性
JCOG2007で試験治療となったプラチナ併用+Niv+Ipiのレジメンは、2022年に報告された、国際共同臨床第III相試験の日本人サブ解析では、3年生存割合が41%と化学療法のみの対照群の14%に比べ非常に良好な成績が得られていた(日本肺癌学会オンラインジャーナル グローバルセッション1免疫療法)。治験では安全性に関する重篤なシグナルは報告されていなかった。一方、JCOG2007で治療関連死亡が増えた要因の一つとして、岡本氏は「JCOG2007では治験よりも登録患者数がかなり増えたことで、これまで検出されなかった毒性が顕在化した可能性がある」と推測する。
試験中断・再開以降の治療関連死亡の背景
このような背景もあり、JCOG2007の最終的な試験中止は簡単に決められたわけではなかったようだ。同試験では治療関連死亡が9例集積した時点で試験を中断し、全てのデータを精査した。チーム内でさまざまな議論を行い、「治療関連死亡の群では白血球数が多い(>8600/mm3)、かつ好中球数/リンパ球数の比が5を超える患者さんが約20%いることが分かり、この除外規準を用いれば、治療関連死亡は1%に抑えられると判断して、その内容を説明同意文書に反映し、試験を再開した」(岡本氏)。
試験を再開した2022年4月から2023年3月までに併用群における治療関連死亡は起きなかった。しかし、3月16日に、治療開始から391日が経過していた患者がサイトカイン放出症候群を発症し、当日に亡くなった。岡本氏は「この患者さんは私たちが新たに設けた除外規準の危険群ではなかった。そのような患者さんでも急激な転帰が起こることが分かったので、この段階で試験中止を決定した」と振り返る。3月30日の試験中止後の4月、併用療法を続けていた患者が肺臓炎で死亡し、治療関連死亡は11例となった。
「Niv+Ipiを続けるかどうか、よく話し合う必要ある」
「NivとIpiの併用療法を続けるかどうかは、患者さんと主治医の先生がよく話し合う必要がある。薬剤関連有害事象が不安だからNivだけに移行しようということもあるだろう。一方、併用療法で長期生存が得られる可能性があるし、治療関連死亡の割合が約7%であることを考えて、注意しながら治療を続けていこうという考え方もあると思う」記事検索と岡本氏。「再発進行NSCLCは非常に厳しい病気であり、原疾患が悪化して亡くなる患者さんも多く、少ない頻度ながら治療関連死亡の転帰をたどる患者さんもいる。どの治療であっても、治療の限界やリスクについては主治医との間でかなり長い時間をかけて説明と同意を形成していると思う。われわれも患者さんが不幸な転帰をたどることは残念であり、どの患者さんも忸怩たる思いがあるはず。それぞれの患者さんやご家族がどう受け止めて進んでいくかというのは、色々な考え方があるだろう」と話した。
岡本氏らは今回の治療関連死亡に関し、患者・医療機関向けに初期症状や治療方針のポイントも公表している(関連リンクのプレスリリース5ページ目を参照)。
JCOG2007でこれまでに報告された治療関連死亡は表の通り。
(参考)非小細胞肺がんを対象としたニボルマブ+イピリムマブ併用療法 の多施設共同臨床試験に係る現状と重要な注意事項について|国立がん研究センター (ncc.go.jp)
以上、M3という医療関係サイトのニュースで配信された最も詳細な報告・コメントと思われる記事をほぼ無修正で転載いたしました。
免疫チェックポイント阻害剤というのはがん免疫サイクルにおける樹状細胞やキラーTリンパ球の重要な機能を補助、増強する薬剤です。また、免疫細胞療法とは併用する場合は、現在使用されている薬剤の10%程度の投与量で十分機能することを確認しております。
瀬田クリニックグループでは、免疫チェックポイント阻害剤治療を受けている方への免疫細胞治療併用は行っておりません。瀬田グループで行われている研究《*免疫チェックポイント阻害剤(オプジーボ、キイトルーダ、テセントリク)の治療後の方を対象とした臨床研究)》は、イピリムマブを含まない免疫チェックポイント阻害剤治療を終了し、不応と判定された方の一部の方が対象です。免疫治療関連の問合せ・相談がすでにあっております。ご自身単独で判断されず、必ず主治医とお話をされてください。または当院の相談外来でも質問などの対応をしたいと考えています。
2023年5月3日 福岡メディカルクリニック 内藤恵子