メディカルトピックス
MEDICAL TOPICS
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No.55「体に良い」も過ぎると「体に悪い」になる場合がある(1)
「体に良い」特定の食品ではなく、多様な食品をバランス良く食べよう
日経Gooday 2023/6/27 野口緑(大阪大学大学院公衆衛生学特任准教授)より転載
https://gooday.nikkei.co.jp/atcl/column/20/120400009/062200031/?ST=print 1/7
生活習慣病を解消し、一生ものの体をつくるために知っておきたいことを大阪大学大学院の野口緑特任准教授に解説してもらう本連載。今回は老若男女を問わず血液データをきれいにしてくれるという「正しい食事法」と「それぞれの食品の目安量」を取り上げよう。
こんにちは。大阪大学大学院で生活習慣病予防の研究をしている野口緑です。生活習慣病を防ぐには、文字通り生活習慣がカギとなります。中でも柱になるのが「食事」と「運動」であることはご存じでしょう。そこで今回は「正しい食事法」について、お話ししたいと思います。
まず、ぜひ知っていただきたいことは「食べてはいけないものなんてない」ということです。砂糖だって、脂肪だって、アルコールだって、決してとってはいけないわけではありません。問題は「量」なのです。多くの食品は体に有用な栄養素を含んでいますが、とり過ぎると良くない成分もあるのです。例えば、塩分をとり過ぎると循環血液量を増やすなどして血圧が上がりますし、糖分をとり過ぎるとインスリンによる血糖コントロールが追い付かず、血糖が上がる。また、コレステロールや飽和脂肪酸をとり過ぎると、LDLコレステロールが上がる、といった具合です。
でも、食事の際にコレステロールが多いものを食べたからといって、すぐに高コレステロール血症になるわけではありません。私たちの体には、いろいろな食事からとった栄養素を、肝臓で必要な形につくり替えるなどして全身の細胞に送り届け、体に不要なものは捨て、余った大切なものは備蓄しておくという仕組みが備わっており、絶えず血液中に過不足が生じないよう調整しています。この、体の内部環境を一定のバランスに保つ「ホメオスタシス(恒常性)」という機能によって、体に良くないものを食べても何とか帳尻を合わせてくれているのです。
しかし、偏った生活習慣や加齢によって徐々にその機能は破綻していきます。例えば糖が多いものばかり食べ続けていると、インスリン(*1)がどんどん分泌され、結果としてインスリンをつくる膵臓(すいぞう)のβ(ベータ)細胞が疲れて機能が低下し、やがては糖尿病になってしまいます。
健診データは、病気の有無だけでなく、そういう偏った生活習慣の結果によって生じた血液中のさまざまな物質量の変化を数字で表してくれています。糖分の多いものをとり続けて、ついに糖を処理できなくなってくると、血糖値やHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー *2)が上がってきます。また、毎晩、多量飲酒が続くと肝細胞が傷んで、肝機能検査の数値が上昇してきます。つまり健診結果は、「データに表れるほど自分の生活習慣が偏っているかどうか」をチェックするための貴重な情報と言えます。この連載でいつも申し上げているように、「病気があるかないか」だけを気にしていてはいけないのです。
*1 血液中のブドウ糖を筋肉や脂肪細胞に運び、血糖値を下げるホルモン*2 最近1~3カ月間の血糖値を反映する指標。基準値は5.5%以下で、それを超えると「高血糖」とされる。6.5%以上になると糖尿病の可能性が高い
いくら体に良くても、特定の食品ばかり食べ過ぎると問題が。。。
テレビで「こんな食品にコレステロールが多い」「これを食べると骨が丈夫になります」などと言われると、多くの人がその情報に飛びつきます。その情報自体に間違いはなくても、それが「自分に必要な情報なのかどうか」は別問題です。LDLコレステロールが高くない人がそんなに食品のコレステロール量を気にすることはないし、血圧が高くないのにストイックな塩分制限をする必要はないということです。
もちろん塩分はできるだけ控えた方がいいですし、コレステロールもとり過ぎない方がいいでしょう。ですが、「モグラ叩き」のように良くないと言われるものをとにかくすべてやっつけようとするのではなく、「全体を見たときに自分に何が必要か」を判断してほしいのです。
かなり前の話になりますが、私が保健指導をしていた頃、テレビや雑誌などで「ココアが健康に良い」と盛んに言われ、砂糖入りのココアを飲み続けたのでしょうね。実はその頃、健診結果でHbA1cがわずかに上がった人が多く見られました。ココアのポリフェノールや食物繊維は確かに体に良いかもしれません。しかしそれでHbA1cを上げ、動脈硬化を進めてしまったらその努力は台無しだと思いませんか。(中略)
いくら体に良いと言われる食品でも、そればかり食べていると別のところに問題が出てくるのです。コレステロールが高い人がコレステロールを下げる食品を探すのはいいのですが、一般に「体に良い」とされる特定の食品に、皆が飛びつくのは極めてナンセンスだと思います。
まず、自分の体を知りましょう。そのために健診データを活用してください。健診データを見て、自分の体のウィークポイントがどこなのかを知りましょう。同じような食生活をしていても、血糖値やコレステロールが上がりやすい人と上がりにくい人がいます。それこそが体質であり、個人差です。自分のウィークポイントをしっかり理解した上で、どういう食品や身体活動を取り入れるべきか考えることが大切です。
⇒ No.56(2)に続く 毎日必ずとってほしい食品は?