メディカルトピックス
MEDICAL TOPICS
MEDICAL TOPICS
No.64 免疫でがん倒す新技術、難しい膵臓や脳でも 北大や理研
2024/5/21 2:00日本経済新聞 電子版より改変
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOJC086QU0Y4A400C2000000/
体の中で眠る免疫細胞を覚醒させ、従来の免疫薬では治療が難しい膵臓(すいぞう)がんや脳腫瘍を攻撃させる新技術を北海道大学や理化学研究所が相次ぎ開発した。(中略)
がんの治療手段は長く手術と放射線、抗がん剤の3種類だったが、10年代に第4の治療法として免疫薬(免疫チェックポイント阻害剤)が登場した。代表格にあたる「オプジーボ」の開発につながる発見をした京都大学の本庶佑特別教授は2018年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。抗がん剤などが効かない患者にも効果が出る革新的な治療法として肺がんや胃がん向けに普及が進む。がんは免疫を担うT細胞が持つ(PD-1)分子と(がんが持つPD-L1分子が)結合することで、その攻撃を逃れる。免疫薬は結合を断ち切り、がんへの攻撃を促す。だが病気が進むとがん細胞は自らの目印になるたんぱく質(がん抗原)を出さなくなり、免疫細胞の目を逃れる。この状態で免疫薬を投与しても効果が出ない。そのために免疫薬が効く患者は全体の10〜30%にとどまる。
北大の小林弘一教授らは狙った遺伝子に届くガイドRNAに酵素を付けた化合物を併用して、免疫薬の効果を高めた。酵素ががん細胞の特定の遺伝子に作用して、がんの目印となるたんぱく質を作らせるようになる。T細胞ががんを認識できるようになって、既存の免疫薬の効果を高められる可能性がある。増殖が速い皮膚がんの一種のメラノーマを移植したマウスで効果を確かめた。(中略)今後は診断5年後の生存率が8.5%にとどまる膵臓がんなどでも効果を試し、29年以降に治験の実施を目指す。
さらに小林教授は「化合物でT細胞の攻撃力を高めれば、転移したがんの治療も狙える」と話す。(中略)特殊なカプセルに包んだ抗がん剤を組み合わせて、免疫薬の効果を高める研究も進む。川崎市産業振興財団のナノ医療イノベーションセンターは直径30〜50ナノ(ナノは10億分の1)メートルのカプセルに乳がんなどの治療に使う抗がん剤エピルビシンを詰めた。このカプセルはがん組織の中に入ると分解して抗がん剤を放出する。脳腫瘍の膠芽腫(こうがしゅ)や膵臓がんを移植した計20匹のマウスで実験した。(中略)カプセルと抗PD-1抗体などを併用すると、90日後に18匹(90%)でがんが縮んで見えなくなった。抗がん剤の効果で死滅したがん細胞から出た抗原がT細胞を活性化し、免疫薬の効果を高めたという。喜納宏昭主幹研究員は「患者の命に関わる膠芽腫の再発や、膵臓がんの肝臓への転移もマウスの実験では防ぐことができた」と話す。まず乳がんや筋肉のがんで28年に治験を目指す。
免疫細胞そのものの力を引き出す試みもある。理化学研究所はマウス胎児の皮膚の細胞に、免疫を担うナチュラルキラーT細胞(NKT細胞)にくっつく分子を作った。分子と結合して刺激を受けたNKT細胞はたんぱく質を放出して、ほかの免疫細胞も活性化する。その結果、病気が進んで目印のたんぱく質を出さなくなったがんもたたくようになるという。免疫薬が効かないメラノーマを移植したマウスに細胞を投与した。12日後のがんの体積は、治療をしない場合の4%程度に抑えた。(中略)肺がんや膵臓がんで29年までに治験を始める。藤井チームリーダーは「血流などに乗った小さいがんをたたいて転移を防げる可能性がある」とみる。
新技術の実用化につなげられれば、多くの患者を救える可能性があるが、課題もある。免疫細胞の働きを活性化させるため、免疫が働き過ぎることによる副作用が出る可能性がある。
従来の免疫薬も皮膚や消化管、肝臓などで副作用が報告されている。治療効果とのバランスを見極めながら、治療薬の開発を進めていく必要がある。(草塩拓郎)
以上、がん免疫細胞、特に(キラー)T(リンパ球)細胞の機能を強める治療の開発が進んだという報告です。がん患者では、体内のT細胞が減少していることは確認されています。免疫薬が効かない場合はT細胞そのものが不足しているか、機能していないことが原因と考えられます。当院では主にT細胞を増強し、再生する免疫細胞療法を行なっています。さらに、2023年よりNKT細胞療法も提供開始しております。免疫細胞療法は標準治療との併用でより良好な効果を認めます。より有効な併用治療の開発に期待したいと思います。
2024年5月26日 福岡メディカルクリニック 内藤恵子