メディカルトピックス
MEDICAL TOPICS
MEDICAL TOPICS
No.75 日本人大腸がん患者さんの5割に特徴的な腸内細菌による発がん要因を発見
~国際共同研究により大腸がんの全ゲノム解析を実施し日本人症例を解析~
2025/05/21 国立研究開発法人国立がん研究センター プレリリースより改変
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2025/0521/index.html
国立研究開発法人国立がん研究センター (東京都中央区、理事長:間野博行) 研究所 がんゲノミクス研究分野分野長 柴田龍弘(国立大学法人東京大学医科学研究所附属ヒトゲノム解析センターゲノム医科学分野教授)は、米国カルフォルニア大学サンディエゴ校、英国サンガー研究所ならびにWHO国際がん研究機関との国際共同研究に参画し、日本を含む発症頻度の異なる世界11か国の大腸がん981症例の全ゲノム解析から発がん要因の解析を行いました。
その結果、他の地域と比較して日本人大腸がん症例には、腸内細菌由来のコリバクチン毒素による変異パターン(変異シグネチャー)がより多く(全体の5割)存在することが明らかとなりました。また、コリバクチン毒素による変異パターンは、高齢者症例(70歳以上)と比較して若年者症例(50歳未満)に3.3倍多くみられ、特に若年者大腸がんの発症に強く関連していることが示されました。コリバクチン毒素による変異は最も早期に起こるドライバー異常であるAPC変異の15%にみられ、若年期からの暴露が大腸がんの発症リスクと相関する可能性が示唆されました。
大腸がんにおけるコリバクチン毒素による変異パターンは、その時に存在しているコリバクチン毒素産生菌の量とは関連しないことから、早期から持続的に暴露していることが大腸がん発症に寄与するのではないかと推定されます。
今後さらに若年者を含めた大規模な日本人大腸がん症例における研究を進めることで、日本人大腸がんに対する新たな予防法や治療法の開発が期待されます。
本研究は、英国王立がん研究基金(Cancer Research UK)ならびに米国がん研究所によって設立されたCancer Grand Challenge注1が進める国際共同研究(Mutographs project注2)で、世界の様々な地域における悪性腫瘍の全ゲノム解析を行うことで、人種や生活習慣の異なる地域ごとに発症頻度に差がある原因を解明し、地球規模でがんの新たな予防戦略を進めることを目的として実施されているがん疫学研究です。
研究成果は英国専門誌「Nature」に英国時間2025年4月23日付で発表されました。なお、本データは広く研究者が利用できるよう、国際がんゲノムコンソーシアム(ICGC-ARGO)注5に登録され、公開されます。
以上、若年者の大腸がんについて発がん原因が一つ明らかになりました。コリバクチン毒素そのものは多くの大腸菌、腸内常在菌よりも分泌されるものであり、特異な状態とも言い難いので、その対応策は今後の研究を待つことになるでしょう。しかし、胃がんにおけるピロリ菌除菌対策のように監視や早期発見法の一つにつながることが期待できます。消化管にはリンパ組織が豊富にあり、免疫機構の重要な組織と認識されています。発がんは複数の要因で起こると考えられます。また、40歳以降に免疫機構の機能はピークを越えることも分かっています。がんに対する免疫機能について注視する事が重要であると思います。
2025年6月1日 福岡メディカルクリニック 内藤恵子