メディカルトピックス
MEDICAL TOPICS
MEDICAL TOPICS
今、問われる細胞治療の今後―3
– 患者さんのための健全な発展を願って-
2026年1月14日 瀬田クリニック東京 院長ブログ
https://www.j-immunother.com/blog/139staff/
これまでのお話と、今回お伝えしたいこと
「今、問われる細胞治療の今後-1」「-2」では、2つの重大医療事故を取り上げて、免疫細胞治療と幹細胞治療の現状を報告しました。
今回はそれをさらに掘り下げて、現在の細胞治療において具体的に何が問題なのかを考えてみたいと思います。
医療機関が行う治療と、その責任のあり方
現在、日本で行われている細胞を用いた医療、いわゆる免疫細胞治療や幹細胞治療には、大きく分けて二つの形があります。
一つ目は、医療機関が主体となって行う治療です。これらは自由診療や臨床研究として実施されており、「再生医療等安全性確保法(安確法)」のもとで規制されています。安確法では、医療機関が守るべき安全対策が定められており、細胞の培養や加工については、専門の企業へ外部委託することも認められています。ただし、あくまで治療の責任主体は医療機関であり、細胞培養を行う企業は、医療機関の依頼を受けて業務を行う立場にあります。
国が承認する「再生医療等製品」とは何が違うのか
二つ目は、企業が医薬品として細胞製品を製造・販売する形です。こちらは「医薬品医療機器等法(薬機法)」に基づき、「再生医療等製品」として国の承認を受けたうえで提供されます。再生医療は一般の医薬品と同様の治験を行うことが難しい場合も多いため、「有効性が推定され、安全性が確認されている」ことを条件に、一定期間・条件付きで早期承認を行う制度(条件及び期限付承認制度)が設けられています。
このように、
という明確な違いがあります。
現在、自由診療として行われている多くの免疫細胞治療や幹細胞治療は、医療機関が主体となり、安確法のもとで実施されているものであり、国の承認を受けた「医薬品」や「再生医療等製品」ではありません。
企業が前面に出ることで起きている問題
本来、細胞培養を受託する企業は、医療機関を支える裏方として関与する存在です。しかし現状では、企業が前面に出て治療を宣伝しているケースが少なくありません。
実際にインターネットで免疫細胞治療を検索すると、企業が運営する多くのウェブサイトが見つかります。そこでは「〇〇療法」といった、あたかも製品名のような固有名詞で治療が紹介され、さらにその治療を提供しているとして、全国の医療機関名が一覧で掲載されています。
もしそれが国の承認を受けた再生医療等製品であれば、その製品を使用できる医療機関が示されることは自然です。しかし実際には、承認された医薬品ではないにもかかわらず、あたかも企業が承認済みの製品を製造・販売しているかのような誤解を与える表現が見受けられます。
一律の治療提供と、過度な情報発信への懸念
患者さんは、そのサイトから紹介された医療機関を受診し、その治療を受けるという一定の流れが存在します。しかし本来、医師は、がん患者さんが訪れたら、その病状により、免疫療法が適応となるかどうか、適応となる場合には、どのような方法でどのような免疫療法を行うのが最善かを判断したうえで、治療に入るべきです。来院された患者さんに、単に同じ治療を一律に提供するというのでは、ある意味、その治療の販売店のような存在です。それでは、がん患者さんがよく飲んでいる〇〇水などのサプリメントと同様の民間療法といえます。
さらに問題なのは、
といった情報発信が少なくないことです。
中には、実際に承認され、標準治療として広く用いられている免疫チェックポイント阻害薬を大きく上回る効果があるかのように記載されている例も見られます。こうした情報は、治療を検討している患者さんに過度な期待や誤解を与えてしまうおそれがあります。
正しい情報をもとに、安心して治療を選ぶために
再生医療や細胞治療を真に前進させていくためには、患者さんに対する十分で正確な情報開示が不可欠です。ここでいう「情報」とは、単なる意見や体験談ではなく、どのような研究から、どのような方法で得られた結果なのかが明確であり、専門性を有する第三者による評価(査読)を受けたものである必要があります。主要な学術誌に掲載された論文は、その重要な基準の一つです。
その観点から、瀬田クリニック東京では、治療の安全性および治療成績について、可能な限り臨床研究として結果をまとめ、複数の専門家の査読(peer review)を受ける学術誌に発表してきました。その数は、これまでに80編以上にのぼります。
https://www.j-immunother.com/about/research_detail
今後、再生医療・細胞治療の分野では、安全性や科学的妥当性だけでなく、有効性についても、正式なデータの公開と検証がこれまで以上に求められていくでしょう。患者さんが正しい情報に基づいて治療を選択できる環境を整えることが、この分野の健全な発展には不可欠です。治療を選択される際には、是非「誰が責任を持ち、どのような根拠に基づいて提供されている医療なのか」を確認していただきたいと思います。
2026年は、行政や学会が連携し、透明性と科学性を重視した制度整備と情報発信が進むことを強く期待したいと思います。
以上が最終話となります。免疫細胞を体内から取り出し、徹底した施設管理下での清浄操作を行い培養し増殖させ、そして一部は科学的に安全性な薬剤または生物製剤を利用して細胞を活性化する。この一連の造作をひとり一人の患者血液において、確実に安全に施行すると言う事が、いかに難しく緊張する作業であるか、自身も培養研究を行っていた経験より知っています。医療者としてお一人毎の治療には祈るような気持ちでおります。再生医療の安全確保のための法律は守られなければ意味をなしません。また、今般の新しい医療に対しても対応していく事も必要でしょう。私達は今後の細胞医療に期待するしかありません。
2026年01月20日 福岡メディカルクリニック 内藤恵子