メディカルトピックス
MEDICAL TOPICS
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No.30 変異ウイルス撃退のカギ、免疫の主役「キラーT細胞」新型コロナ克服へ活用
2021/4/23 11:00 日本経済新聞 電子版より
https://www.nikkei.com/news/printarticle/?R_FLG=0&bf=0&ng=DGXZQOUC161XE0W1A410C2000000
新型コロナウイルスを強力に撃退する細胞の力に注目が集まっている。ウイルスに感染した細胞を探して壊す「キラーT細胞」だ。変異ウイルスにも対応しやすい力を持つほか、高い効果を発揮するワクチンを支えている可能性がある。抗体と並ぶ「免疫の主役」として、今後の治療や感染防止対策のカギを握りそうだ。
人間がウイルスなどの病原体から身を守るために持つのが免疫システムだ。強い免疫には2種類ある。抗体が活躍する液性免疫と、細胞が直接ウイルスの排除に関わる細胞性免疫だ。このうち抗体は、免疫細胞が作り出すもので、ウイルスに結合し、細胞への侵入を防ぐ。抗体は1つの細胞がたくさん作るので、効率良くウイルスを除去できる半面、少しでもウイルスの表面のたんぱく質が変化すると、結合しにくくなり、効果が弱まる恐れがある。一方、細胞性免疫の主役はキラーT細胞だ。ウイルスに感染した細胞を見つけて細胞ごと破壊するパワフルな細胞だ。
新型コロナとの闘いで、このキラーT細胞が重要な役割を果たしているという研究成果が相次いでいる。そのひとつとして、キラーT細胞が、世界中で猛威をふるう変異ウイルスを、死滅させる可能性が高いことがわかってきた。米国立衛生研究所や米ジョンズ・ホプキンス大学は、通常の新型コロナに感染して回復した30人の血液中のキラーT細胞を分析した。3月に発表した結果によると、英国型、ブラジル型、南アフリカ型の変異ウイルスに対して、キラーT細胞が認識・反応できることがわかったという。(中略)
さらにキラーT細胞は、新型コロナのワクチンが、変異ウイルスの感染阻止や発症予防にも効力を発揮している理由にもなっていそうだ。米ファイザーや米モデルナの新型コロナ用のワクチンは、ウイルスの遺伝情報(メッセンジャーRNA)を体内に注射し、人工的に抗体を作る。実はこの抗体は一部の変異ウイルスにはくっつきにくい。一方で、ワクチンからできたたんぱく質がキラーT細胞を活発にさせ、感染細胞を壊している可能性があるという。(中略)
ただ、抗体の量は容易に測定できるが、キラーT細胞は専門的な技術が必要で、手間もコストもかかる。キラーT細胞を人工的に増やす薬剤なども現在のところない。キラーT細胞を治療や対策に生かす技術開発は、コロナ克服に向けて重要視されそうだ。
治療用のキラーT細胞を人工的に作る試みが国内で進む。京都大学ウイルス・再生医科学研究所の河本宏教授や藤田医科大などはiPS細胞を用いてキラーT細胞作製に取り組む。感染して回復した人のキラーT細胞から、感染細胞を認識するたんぱく質を作る遺伝子を特定し、他人のiPS細胞に組み込んだ上でキラーT細胞に変化させる。できたiPS細胞を感染した人に移植して、体内の新型コロナウイルス増殖を抑えることを狙う。
2021年度中に遺伝子を見つけ出し、2~3年後の実用化を目指す。河本教授は「この方法は他のウイルスにも応用が可能だ。今後新たなパンデミックが起きた際にも対応できるだろう」と話す。(以上)
メディカルトピックスNo. 17においてもコロナウイルスとキラーT細胞(CD8リンパ球)について述べてきましたが、1年を超えるパンデミックの中、実際のデータが積みあがってきた報告です。キラーT細胞を増強させる方法は、現状ではがんの治療として行っているαβT細胞療法や樹状細胞ワクチン療法のみとなります。がん治療においては、がん抗原タンパクがキラーT細胞の目標となり(No.14 、24)、新型コロナウイルス感染症においては、メッセンジャ―RNAから作られるウイルスタンパクを記憶され、目標となるわけです。キラーT細胞は、この様に多くの異常タンパクやペプチドに対してそれぞれに対応できる免疫細胞なのです。必要な人に、いつでも、この細胞が治療製剤として使える日が近づいていると考えます。
2021年6月13日 福岡メディカルクリニック 内藤恵子