メディカルトピックス
MEDICAL TOPICS
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No.62 日本人のがんゲノム異常の全体像を解明
約5万例のがん遺伝子パネル検査データを解析
2024年2月29日 国立研究開発法人国立がん研究センター プレスリリース
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2024/0229/index.htmlより抜粋
がんゲノム情報管理センターに蓄積された様々ながん種由来の約5万例のがん遺伝子パネル検査データを解析し、日本人におけるがんゲノム異常の全体像を解明しました。治療薬の標的、または、治療薬の効果予測できるゲノム異常がある症例の割合を評価することで、日本におけるがん種ごとのがん遺伝子パネル検査の臨床的有用性を明らかにしました。多数のがん種においてTP53遺伝子変異頻度が高いなどの日本人のがんゲノム異常の特徴を明らかにしました。
概要
国立研究開発法人国立がん研究センター研究所(所長:間野 博行)の片岡 圭亮分野長(分子腫瘍学分野/慶應義塾大学医学部内科学教室(血液)教授らの研究グループは、国立がん研究センターがんゲノム情報管理センター注1(Center for Cancer Genomics and Advanced Therapeutics:以下C-CAT)に蓄積された、様々ながん種由来の約5万例のがん遺伝子パネル検査データ注2を解析し、日本人におけるがんゲノム異常注3の全体像や特徴、その臨床的有用性注4を明らかにしました。今回の研究の主な成果は以下の点です。
1.C-CATに登録された様々ながん種由来の48,627例を対象として、がん種横断的にがんの発生・進行などの直接的な原因となるドライバー遺伝子異常注5の解析を行い、欧米と比べて日本人に多いがん種(胆道がんや胃がん、子宮頸がんなど)を含めて、日本人におけるがんゲノム異常の全体像を解明しました。
2.治療薬の標的となる、または、治療薬の効果予測できるゲノム異常注6がある症例は全体の15.3%でした。さらに、日本におけるがん種ごとのがん遺伝子パネル検査の臨床的有用性を明らかにしました。欧米と比べて日本人に多いがん種では治療薬の標的となるゲノム異常がある症例の割合が低く、さらなる治療薬開発が望まれることが判明しました。
3.米国で同様に蓄積されたがん遺伝子パネル検査データと比較することで、10種類のがん種でTP53遺伝子変異注7の頻度が高いなどの日本人のがんゲノム異常の特徴を明らかにしました。
4.日本と米国のゲノムデータを統合的に解析することで、エピゲノム制御因子注8変異が共存しやすく、がんの生存に有利に働くことを解明しました。
本成果は、日本人においてがん種横断的にドライバー遺伝子異常の全体像を解明した初めての試みであり、アジア最大規模のがんゲノム解析です。さらに、保険診療で実施されているがん遺伝子パネル検査の網羅的解析により、日本におけるがんゲノム医療注9の状況を提示するものとなります。現在、欧米を中心に構築されたゲノムデータを元に治療開発が進んでいますが、今回の研究成果は、人種間の違いを踏まえ、日本人のがんの特徴に着目した診断・治療戦略を確立し、治療開発の基盤を構築することの重要性を示唆しています。(以下省略、詳細は引用サイトを参照下さい)
本研究結果は2024年1月26日に米科学誌「Cancer Discovery」に掲載。
用語解説
注1)日本において、保険診療下で実施されたがん遺伝子パネル検査から得られたゲノム情報および診療情報は、C-CATに集約・保管されている。注2)がんの組織から100種類以上の遺伝子を同時に調べ、がん細胞に起きている遺伝子の変化を検出する検査。検査結果を基に、遺伝子異常を標的とした治療を検討できる。注3)ゲノム異常とは、ゲノムDNAに生じる変化のことを指し、ゲノムDNAを構成する塩基(アデニン、チミン、シトシン、グアニン)が置き換わったり、挿入したり、欠失したりする変異や構造異常(長さが数十塩基対以上の異常や、染色体をまたいだ異常)、特定のDNAの複製が何度も起こるコピー数異常などが含まれる。ゲノム異常の中で、遺伝子に関連するものは、遺伝子異常と呼ばれる。注4)ゲノム異常の臨床の治療選択および予後予測における有用性のこと。注5)がんの発生・進行などの直接的な原因となる遺伝子のこと。ドライバー遺伝子の遺伝子異常は治療標的になり、その同定は重要である。注6)治療薬の標的となるゲノム異常はエビデンスレベルと呼ばれる科学的根拠の強さによって、1・2・3A・3B・4に分類され、本研究では、がん治療薬のデータベース(OncoKBTM)を基に、エビデンスレベル1~3Aを、「治療薬の標的となる、または、治療薬の効果予測できるゲノム異常」と定義。最も科学的根拠の強いエビデンスレベル1のゲノム異常は、当該がん種において米国食品医薬品局の承認を受けた治療薬における効果予測ができるゲノム異常のことを指す。注7)遺伝子異常の一種で短い挿入・欠失や一塩基置換が起こったもの。注8)遺伝子発現を制御し細胞の機能調節に関わるもの。注9)がん遺伝子パネル検査などによって得られた遺伝子異常の情報に基づいて、一人ひとりに合わせた治療を行う医療。
以上、がん発症に重要な意味を持つ遺伝子異常について日本人で集積された大規模データの研究です。現時点での保険治療につながる遺伝子異常発生率は15.3%となりました。特にp53遺伝子異常は日本人に多い結果となりました。当院で行っている検査でも同様の結果が推測されてます。当院で行う免疫細胞を使ったがん治療はここで判明した遺伝子異常群を含み、さらに多くの遺伝子異常を治療目標と認識して多種類の免疫細胞が相互反応します。当院では血液でのがん遺伝子パネル検査も可能です。がん治療は複合治療が有効で組み合わせは一人ずつ個別に考えることが重要です。治療などについて、いつでもご相談いただきたいと思います。
2024年3月10日 福岡メディカルクリニック 内藤恵子