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No. 89 リキッドバイオプシーで進む個別化がん診療

No. 89リキッドバイオプシーで進む個別化がん診療 

~ctDNAで術後療法のオンオフを決める時代へ~

2026/07/01「日経メディカル特別編集版 2026 summer」(要約)

再発リスクをより精緻に見極め、本当に必要な人にだけ術後療法を行う──。この判断を、術後検体に加えて血液を用いて行えるようになるかもしれない。がん細胞から出る微量なDNAなどを検出するリキッドバイオプシーが現在、急速に進歩している。個別化がん診療はどう広がるのか。

2026年1月、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)のアテゾリズマブについて、血中循環腫瘍DNA(ctDNA)で分子的残存病変(MRD)陽性と判定された膀胱癌の術後療法としての適応拡大申請が行われた。承認されれば、国内で初めてのMRD評価に基づく周術期治療となり、Precision Oncology(個別化がん診療)が一歩前進する。現在、術後療法の対象を判断するための再発リスク層別化は、臨床病理学的な因子に基づくものにとどまっている。ここに一石を投じるのが、がん細胞の崩壊に伴い血中に流出するDNA、ctDNAを解析する技術だ。これは血液や尿からDNAやRNAなどを採取・解析するリキッドバイオプシーの一種。ctDNAはこれまで主に進行がん領域で遺伝子変異を検出し、分子標的薬の適応を判断するなどの用途で用いられてきた。近年は検出技術が向上し、切除可能ながんの領域でも、がん細胞の有無と対応するctDNAを、再発リスク層別化に活用できるのではないかと期待されている。そうした中、膀胱癌で初めて、ctDNAに基づく治療介入がフェーズ3ランダム化比較試験の主要評価項目を達成した。

ctDNA陰性で再発リスク低く、術後療法の省略に期待

ctDNA検査に基づく術後療法というコンセプトを、専門家はどう評価するのか。神戸大学大学院医学系研究科腎泌尿器科学分野教授で日本癌治療学会の「分子的残存病変検査の適正利用に関する見解書」作成委員も務める三宅秀明氏は、「術後療法は臨床病理学的に比較的高リスクな患者に絞って行うが、一定の割合で含まれる『手術で根治して、術後療法が不要な患者』を十分に区別できていない。ctDNAで再発リスクが低い集団を抽出できれば、不要なICI治療に伴う免疫関連有害事象(irAE)リスクなどを減らす意義があるだろう」と話す。
アテゾリズマブの適応拡大申請の根拠となったIMvigor011試験では、こうした意見を裏付ける結果が報告されている。試験対象は、膀胱全摘除術を受け病理学的に再発高リスクな尿路上皮癌患者。6週間おきに術後1年までctDNAを測定し、陽性患者をアテゾリズマブ群とプラセボ群に割り付け、陰性が持続した患者を経過観察した。761人を登録し、いずれかのタイミングでctDNAが陽性だったのは379人、1年間陰性が持続したのは377人だった。2年無病生存(DFS)率は陽性例のプラセボ群が12.1%だった一方、陰性例は88.4%。陽性例のアテゾリズマブ投与群は、プラセボ群に比べて、DFSとOSが有意に延長していた。

ctDNAの有用性は、大腸癌など他のがん種でも示されている。大規模前向き観察研究であるGALAXY試験では、術後2~10週間にctDNA陰性だった高リスクステージII/III大腸癌患者に対する術後療法は、経過観察と比べて、再発・死亡リスクの有意な低下を認めなかった(Nat Med.2024;30:3272-83.)。一方、ctDNA陽性例は、78.3%が再発し、画像検査での再発より中央値で5.9カ月前にctDNAが検出されていた。現在、ランダム化比較試験としてctDNA陽性例を対象に術後療法の有用性を検証するALTAIR2試験、ctDNA陰性例を対象に経過観察の安全性を検証するVEGA試験が計画・進行中だ。

(中略)

他の技術とも組み合わせて解析、個別化がん診療の未来

術後療法以外でも、リキッドバイオプシーから様々な情報を解析する試みが行われている。例えば、ctDNAは画像検査による奏効判定が難しい場合のモニタリング手段としても活用し得る。血中遊離DNA(cfDNA)のメチル化パターンなどを検出し、がんの早期発見を試みる多がん種早期検出(MCED)も、近年開発が進められている。日本でも、大規模前向き観察研究が始まった。この領域では、リキッドバイオプシーによる「がんの早期発見」をうたう製品が複数存在しているが、もしこれらより高いエビデンスが見いだされたとしても、陽性判定後のフォローアップをどう整備するかという課題は無視できない。また、cfDNAを用いた検査は費用が高額ゆえに、人間ドックなどの検診領域では広がりにくい可能性もある。検体採取が容易で様々な情報を解析し得るリキッドバイオプシー。がんの早期発見については課題がまだあるが、再発リスクの判定は実用化段階に来あている。「必要な人にだけ術後療法を加える」「画像上の変化に先んじて、再発の兆候が現れたら治療する」など、一歩進んだ個別化がん診療が、リキッドバイオプシーで実現できる日は近そうだ。

以上、かなり短く要約をいたしました。リキッドバイオプシー検査を福岡メディカルクリニックでも早い段階から数種の検査を試験導入し検証をしてまいりました。目的は外科治療を終えた患者さんの術後補助化学療法の必要度の判断の補助とするためです。問題は精度管理が困難であることでした。精度の高い検査が実行され、不要な化学療法がおこなわれないとなると、再発予防の免疫細胞療法も最小限で済むと考えます。期待したいところです。

2026年8月2日    福岡メディカルクリニック  内藤恵子

 

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